BLOG
海外諸国のDX事情 北米編①
米国のIT市場調査・コンサルティング会社、International Data Corporation(IDC)社によると、2020年における世界のDX向けのテクノロジー及びサービスに対する支出額は、前年比10.4%増となる1.3兆ドルに達する見込みです。同社は、世界経済に大打撃を与えた新型コロナウイルスの影響で、2020年のDXテクノロジーへの投資額の前年比成長率は2019年(17.9%)に比べ減少しているものの、進行中および今後進められる予定の大規模なDXプロジェクトの多くに対する影響は現時点では小さいとの見方を示しています。これは、DX投資は従来のような部分的なITプロジェクトではなく、企業全体のビジネスイニシアチブへ寄与するものであり、新型コロナウイルスの影響で顕在化した弱点に対し早急に対策を講じようとする動きによるものです。
国別の支出額で見ると、現状米国が世界最大のDX市場であり、2020年の世界全体のDX支出額の1/3を占める見込みです。前年比DX支出額で見ると西欧諸国および中国の伸びが大きく、それぞれ12.8%、13.6%の成長が見込まれていますが、いち早くDXを推進してきた米国企業には、DXプロジェクトを成功に導くためのさまざまなノウハウと知見を有しています。
そこで今回は、海外諸国のDX事情「北米編」と題し、米国におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の現状について、日本貿易復興機構の調査レポート(2020年9月)の内容を参考にご紹介していきたいと思います。
DX推進の現状と課題
アメリカにおいて「DX」という言葉は、デジタル技術の発展・普及とともに、2010年代に入ってから使われるようになった比較的新しい用語で、いわゆるデジタル化(Digitization)やデータ化(Digitalization)などの用語とは区別されます。
DXプロジェクトでは、「変換」を通じたビジネスプロセスの部分的な改良ではなく、「変革」を通じたビジネス基盤全体を大きくアップデートすることを目指します。米国のIT調査・アドバイザリー企業Gartner社の調査(Gartner Digital Enterprise 2020 Survey)によると、2020年までにデジタル化及びデータ化を一層進めなければ市場での競争力を維持できないと考える企業は全体の3分の2以上に上っており、多くの企業がDX戦略の推進に積極的に取り組んでいます。
しかし、アメリカの戦略コンサルティングファーム大手のMcKinsey&Company社の調査によると、DX推進を通じて実際に成果を上げられている企業は全体の30%未満に過ぎません。業種別に見ると、石油、ガス、自動車、インフラ、製薬といった分野でのDX成功率は4~11%に過ぎず、ハイテク、メディア、テレコムなどの比較的デジタル化が進んでいる業種でさえも、DX成功率は全体の26%にとどまっています。
DX成功の阻害要因としては、レガシーITインフラのスイッチングコストや、セキュリティの懸念、専門性・スキルの欠如などさまざまな要因が挙げられますが、そのうちの1つが「異なる部門間で共同する仕組みの欠如」です。DXイニシアチブを成功に導くには、経営幹部によるイニシアチブへの理解と支援があり、組織の将来に対する明確なビジョンをトップが示した上で、部門間の連携を深めることが必要です。
しかし、早くからDXに取り組んでいる米国企業の中には、CEOを中心とする組織のトップがDX戦略をリードし、多大な投資を行ったのにも関わらず、十分な成果を挙げられなかったケースもあります。今回は、General Electric(GE)社とFord社を例にとり、DXプロジェクトにおける教訓について考えていきます。
DX戦略が上手く機能しなかったケース
General Electric(GE)社
電気事業をルーツとする多国籍コングロマリット企業のGE社は、2011年から自社のサービスと製品をデジタル変革するという「インダストリアル・インターネット(Industrial Internet)」戦略の下、多くの製品にセンサーを埋め込み、IoTに対応するソフトウェアの巨大プラットフォーム「Predix」を立ち上げ、社運をかけた多額の投資を開始しました。2015年には「2020年までにソフトウェア企業のトップ10になる」という目標を打ち立て、新事業部「GE Digital」を立ち上げた上、同部門に1500名以上を新規採用しました。
ところがこの取り組みは思うように成果をあげられず、2017年12月期に58億ドルの最終赤字を計上し、同社のCEOは退任。長らくの株価の低迷を受け、2018年6月、GE社はダウ工業株30種平均の構成銘柄から外されてしまう結果となりました。その後2018年にGE Digitalは分社化され、インダストリアル・インターネット戦略の中で9億ドル以上で買収された企業の売却も発表されました。
過去、世界1位か2位になれる事業にのみ集中するという”選択と集中”を通じて成功を納めてきたGE社ですが、「Predix」関連事業ではその戦略を十分に活かし切ることができず「Predix」を通じて多くのことをやろうとし過ぎた結果、戦略的な焦点と明確なビジョンを設定しきれなかったとされています。DX入門編②で紹介した通り、DXプロジェクトでは「Small Start, Fail First」を意識することが重要で、熱意のあるメンバーを集めた小規模のチームを構成し、推進した方が効果的な場合が多いとされています。
GE社は現在、産業用ソフトウェアを製造業、電力、石油・ガス、 送電網、航空の5つの主要セグメントに分け、プラットフォームではなくそれぞれのセグメントに適したアプリケーション開発を推進しています。
Ford社
米国の大手自動車メーカーであるFord社は、2016年に同社のデジタル事業計画を推進するため、自動運転、顧客体験、アナリティクスに取り組む「Ford Smart Mobility」という子会社を設立しました。同社は、成長著しい輸送サービス市場に参入し、高度なモビリティ技術を用いたデジタル自動車を開発することを目指していましたが、Ford社はデジタル事業部を他の自動車製造部門とは完全な切り離した形で運営を行っていました。その結果、他の事業部門とのコミュニケーションがほとんどない状態で開発されたFord Smart Mobility社のサービスには品質に関する様々な問題が発生し、その結果同子会社は2017年におよそ3億ドルの損失を計上しました。これを受けてFord社の株価は40%下落し、その責任を取る形で当時のCEOは辞任を発表しました。
DXは従来のビジネス基盤を変革し大きな成長をもたらす可能性を秘めていますが、これは組織が一丸となって連携し、各事業部間で連携をとりながら特定の目標に向かって進むことができてこそ実現可能な取り組みです。このケースからは、DXを成功させるため、いかに組織全体の統合が重要であることを教訓として得ることができます。
2つのケースに共通するのは、組織全体でDXイニシアチブに関するコミュニケーションが効果的に行われていなかったということです。DXプロジェクトを成功に導くには、関わるメンバー全員が共通の目標をシェアし、各メンバーが互いの役割を理解するよう努めることが重要です。
まとめ
今回は、米国におけるDXの現状と課題、そして2つのケースを見てきました。早くからDXに取り組み、数多くの失敗・成功事例を生み出してきた米国企業からは、多くのことを学ぶことができます。
次回は、米国企業におけるDXの成功事例に加え、そこから学べるDX推進の鍵と日本企業への示唆について考えていきます。
Cogent Labsは、手書き文字や活字をはじめとしたあらゆる文字をデータ化する『SmartRead』というサービスをご用意してます。文字の認識率99.22%の技術力から、データ入力業務の効率化とコスト削減できるソリューションです。
AIを活用した文書のデータ化からDXを推進!
AI OCRを超える文書読取り&自動仕分け「SmartRead(スマートリード)」はコチラ>>